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横浜地方裁判所 昭和31年(ワ)1167号 判決 1957年12月12日

川崎市商工信用組合

事実

原告川崎市商工信用組合は昭和三十年四月六日被告湯加緑に対し金百万円を貸しつけ、右債務担保のため被告所有の家屋に抵当権を設定するとともに右元利金の受領に代えて抵当家屋を原告に譲渡することができる旨を約した。しかるに被告は弁済期日を過ぎてもその支払をしないので原告は右約旨に基いて右家屋の所有権を取得しその登記手続を経た。よつて原告は所有権に基き被告に対し右家屋の明渡を求めると述べ、被告の抗弁に対しては、原告が抵当権の実行に代えて代物弁済を選択した場合、本件家屋に対する評価は原告においてなすべく、これについて被告は異議を述べ得ない旨の特約が存したのである。しかも本件の場合右家屋の評価価額は金五十三万六千四百円で到底被告に対し返還すべき差額は生じないから被告の右主張は理由がないと争つた。

被告は、本件において原告が代物弁済を選択した場合、原告において定めた右家屋の評価額が債権額を超過したときには、その超過額を被告に対し返還する約であつたところ、代物弁済がなされた昭和三十一年十一月当時における右家屋の時価は金百五十万円であるから、原告は当然その差額金を被告に支払う義務がある。そして右義務は本件家屋に対して生じたものであるから、被告はその弁済を受けるまで右家屋に対する留置権に基いてこれを占有すると主張した。

理由

被告の主張について判断するのに、本件代物弁済の予約の内容は、その完結の意思表示により原告は本件家屋の所有権を取得するけれども、本来が抵当権の実行に代えてなされる性質上、債権者である原告によつて評価された家屋の評価額を超過する場合には、その超過分を原告は被告に返還するに反し、不足分があれば更に被告に対しこれを請求することができるものであることを認めることができる。しかして本件代物弁済がなされた当時の本件家屋の時価が金百五十万円であつたとの被告の主張はこれを認めるに足る証拠はなく、却つて証拠によれば、原告は前記評価権に基いて右家屋を被告の原告に対する債務額以下である金五十三万六千四百円と評価したことが窺い知られるから、被告の主張は理由がない。

してみると、原告は本件代物弁済予約完結の意思表示をなした昭和三十一年十一月二日の右家屋の所有権を取得したものであり、且つ原被告間の特約によれば原告が所有権取得後三十日以内に被告は右家屋を明け渡すことを約したことが認められるから、被告はその所有者たる原告に対し右家屋を明け渡すべき義務がある。よつて原告の本訴請求は正当であるとしてこれを認容した。

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